思考は揺らめく道化師の羽

読んだ本と琴線に触れた音楽を綴る場所。かつて少年だった小鳥にサイネリアとネリネの花束を。

肉体を持たぬ、視点だけの存在。

存在が消える声というものがある。

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アジカンの、特にバラード曲には肉体が存在しない。

彼の曲を聴いていると、性別を全く感じさせない。
気怠い声。それなのに質感はさらっとしている。

近すぎず、遠すぎない場所で歌われる。
もしくはSF小説の中の登場人物のようだ。

もしくは、ある一定の視点で連写された写真。

歌詞に耳を澄ませた瞬間、そこに「後藤正文」という人間は消えていて、
そこにはカメラのような視点と心理描写が残されている。

そこに肉体は存在しない。
あるのは描写だけであり、共感を無意識に誘う歌詞だけだ。
そして、それらは心に寄り添う。
私たちの積み重なった悲しみを癒すように。

1+1=1

きっと、1+1は2以上の何かを併せ持っているのだ。

たくさんの蝋燭の炎を見て、何を思い浮かべるだろう。

それは命の暗喩だろうか。

それとも、なにか呪術めいた黄泉がえりのことだろうか。

言語では理解できない事柄が、世界には存在する。

見たことも聞いたこともない、異国の地に体だけ放り込まれてしまったような疑似体験。

画面に映っていた男が、画面を見ている「こちら側」に気付いたかのように見つめる。

スクリーンの中でしか生きられない者たちがこちら側を見つめるという、観客と役者が反転したような感覚。

まるで村上春樹の小説に出てくる「顔のない男」のように。

白黒のスクリーンから映し出される風景は、カラーの風景よりも鮮明に焼きつく。

男の現実と、故郷の思い出が水で繋がる。

滴る水。溢れる水。体を横たえ、流れる滝や雨のイメージ。それらは不思議と嫌な気持ちがしてこない。

男の視線と私の視線がぶつかる。彼は確実に、画面の中で「生きている」。

チャップリンと映画の中で再会したらこのような気持ちになるのだろうか。

水は生者と死者を繋ぐ鍵のようなものだ。

革命を叫んだ男は火だるまになって転げまわる。

彼には水の守りを与えることができなかった。

ある種の宗教画のような、何かの新しい始まりの示唆を示すようで、哲学的な要素が満載だった。

一生に一回は見ておいて損はない映画だ。

軋轢から逃れる蜜蜂のように

ミツバチのささやき [DVD]

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子どものころは誰にだって思い浮かぶことがある。

例えば、おじいちゃんの家と、自分の家が押し入れで繋がっているような夢を見たこと。

学校帰りに道草を食っていたら、近所の草むらでバッタを見つけて、

捕まえてふと空を見たら明らかに人間より大きな真っ黒い鳥の影を見たこととか。

少し不思議であり、少し不気味で、かつて身近にあったはずの出来事たち。

そういったものは大人になるにつれ、忘れられていってしまう。

彼らに出会える映画がある。

大人になった今では、おとぎ話にも社会風刺や、残酷な面があるということを知っている。

そんな皮肉も含めて、少し不思議で残酷な精霊たちに会いに行こう。

「怪物君の空、その訳を聞いてよ。ミスタ・パトリオット。」

KAMAKURA

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君繋ファイブエム

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ワールド ワールド ワールド

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怪物君の空と、その訳をと、No.9とネオテニーが好き。

ゴッチの音楽にはきっと、ニコ動で「驚異的な中毒性」と呼ばれる成分がたっぷり配合されているに違いない。

リピート必須であるほど、こんなに曲調は明るいのに、歌っていることは胸を締めつけるほど切ないのはなんでだろう。

もう誰も悲しませないで。

誰かを悲しませた記憶があるのだろうか。

ミスタ・パトリオットは何の過ちを犯したのだろう。

ネオテニー」の羽虫たちはきっと、「サイレン」に出てくる蜉蝣たちだ。

訳すと「幼形成熟」。ウーパールーパーが分かりやすい。

蜉蝣は不完全変態。その未熟なまま儚く命を終えていく姿を切り取ったのだろう。

旅立つ君へからこの曲へのつなぎが絶妙だ。

血の香りが滴るkamakura、どことなく78-0を思い出す。

血液どころか骨(t-born)まであるわけだけど。

ほんのりダークなのは嫌いじゃない。

doukesinohane.hatenablog.com

登場人物について空想していたら、思いのほか長くなってしまった。

熊と踊れ。

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

少し違った「犯罪小説」を読みたい。

面白い外国の小説を探している。

ハードボイルドで、人間味あふれる作品を読みたい。

そんな君には「熊と踊れ」がおすすめだ。

主人公はレオナルド(レオ)、フェリックス、ヴィンセントの三兄弟。

しかし、ただの兄弟ではない。

なんと幼い時から立派な「銀行強盗」になるために、父親から猛特訓を受けた、いまだかつてない兄弟だ。

そんな残酷な運命を背負った彼ら。当然、考え方のこじれが出てくる。

父親の非常識な常識を植え付けられた兄弟たちが、大きくなって銀行強盗を企てる。

皮肉にも、かつての父親のように。

果たして勝つのはレオたち兄弟か、はたまたブロンクス警部有する警察かー。

ストーリーはあっさりしすぎているほど簡潔だが、中身が濃い。キャラも濃い。

そして、終始人間に対する愛で溢れている。

初めは上巻を読むだけでお腹がいっぱいになると思うけれど、頑張って下巻も読んでほしい。

下巻中盤、ある人物の言葉に私は涙を堪えることができなかった。

読んでよかったと心から感謝した。

しかも下巻には、読んだ人しかわからないあるどんでん返しが仕掛けられている。

そこも楽しみにしておいてほしい。


この作品が好きな人は「甘い毒」も良い。

甘い毒  世界探偵小説全集 (19)

甘い毒 世界探偵小説全集 (19)

なぜ「甘い毒」なのか。ネタバレを含むので言わない。それは、小説を読んでからのお楽しみということで。

全ての音楽好きに問う。セッションを見ずに人生を過ごすのは絶対もったいない。

血湧き肉躍るような体験をしたい!

退屈しているからがっつり見ごたえがある映画を見たい。

そういう方もいるのではないのだろうか。

そんなあなたに、今回紹介するのはこちら。

「セッション」。

見ている方はもちろんのこと、見ていない方にも向けて単純明快にあらすじを言うと、

「主人公がコーチに猛特訓を受けて成長する話」だ。

え?それじゃあどこにでもある話でしょって?

いやいやこのコーチ、そんじょそこらのコーチじゃない。

が付くほどのサディスティックコーチなのだ。

もう罵詈雑言の嵐、主人公たちは何度もやり直しを喰らう。

とにかく極悪非道。血も涙もない。本当に人間かと思うぐらいのダメだしに、見ているこっちも泣きそうになってくる。

悪魔に魂を売った男どころか、悪魔が尻尾を巻いて逃げだすレベルだ。

そんなラスボス感を放つ前代未聞の鬼コーチに、主人公はどう向き合い、成長してゆくのか?

最初は見るのに根気と勇気がいるので、心してかかってほしい。

主人公はジャズバンドのドラマーなのだが、魂を捧げてドラムに打ち込む姿には絶対に目を離さないでもらいたい。

死ぬ気の努力、血がにじむほどの努力。きっとあんな状況のことを言うのだろう。

見る前と見終わった後で必ず何かが違って見えると確信できる一本なので、ぜひご覧あれ。

魂の集まり。それこそが本だ。

本のエンドロール

本のエンドロール

今、私の中でこの本が熱い。

本が売れない。

何度も何度もその言葉は聞いてきた。

食傷するぐらいに。

本が売れない理由として挙げられるのが

1 高い

2専門用語や堅苦しい言い回しが多い

3単純に活字が苦手(どうせ読むなら安い漫画の方が良いじゃん!)

ということだと思う。

私も昔は活字が苦手な部類に入っていたので、その気持ちは十分に分かる。

授業中に突っ伏して寝るまでには至らなかったけれど。

そんな「しちめんどうくせえから、本なんて読まないぜ派」の人にこそ読んでもらいたい一冊の本がある。

それが、「本のエンドロール」だ。

本を作る人、本を売る人、作家、全ての人生が重なり合って本が生まれる。

中身をはじめ、装丁、校閲、印刷、販売…。と考えると、どれほどもの人が関わっているのか分かるだろう。

なかには作り上げるのに作者の人生が丸ごとかかっている物もある。

一冊の本には、何十人、何百人もの気持ちが込められている。

たとえ無名の著者だったとしてもだ。

それが数千円か数百円で購入できるのだから、これほど太っ腹なことはないだろう。

新たな出会いにぜひこの一冊。

あなたの人生を変えるのはきっとこの本かもしれない。

今熱烈にドラマ化を期待している。