思考は揺らめく道化師の羽

読んだ本と琴線に触れた音楽を綴る場所。かつて少年だった小鳥にサイネリアとネリネの花束を。


君に伝えたい話がある、今からそれを話そう。


「僕は永遠に治らない病気に罹ってるんだ」

あれ、言っていなかったっけ?

「それが再発したんだ、治療に専念しなきゃ。もう脳みその中で増殖してるんだそれは、」

それが何を意味しているのかは、なんとなく分かった。

「だから、僕はもうここには帰ってこないんだ」

「さよなら」


今朝、彼は笑顔で口を開いた。

私は何も言えなかった。

だって、

彼は昨日まで私と普通に話をしていて、

普通に一緒にいて、

そんなときに、口を開く機会などどこにあるというのだ?



気付いたら、私は泣いていた。

その涙を止める術などなかった。

ただただ、ひたすら泣いていた。

あたりが真っ白になるまで、とめどなく泣いていた。

誰のための涙?

誰のための言葉?

誰のための…。


そこまで考えて、私は気を失った。

それ以降の話を覚えていないのだ。

私は無理して笑って、無表情なふりをした。

希薄なふりなら、どんなに楽なんだろうか。

彼は笑顔で手を振っていた。

そんな時まで、笑顔でいるなよと、ひっそり思った。

泣いてくれよ。

そんな時まで嘘をつくなよ。

こっちまで泣けてくるじゃないか。

リンゴのパイを送った。

私が大好きなものだ。

それ以降彼はこない。

今まであったものがふっつりと途切れてゆく。

こんなこと、映画の中だけだと思っていたのだ。



なあ、嘘だと言ってくれ。

いつものように笑顔で嘘だよと、言ってくれ。

世界で一番の嘘つきの君が見たい。

ただ、それだけなんだ。