思考は揺らめく道化師の羽

読んだ本と琴線に触れた音楽を綴る場所。かつて少年だった小鳥にサイネリアとネリネの花束を。

白の中で血は混じる。

一瞬だけ、見てはいけないものを見てしまった気がした。

病名がびっしりと書き連ねられた書類を見てしまった時のような。

いつも優しい人が、静かに怒っていたことを知ってしまった時のような。

水声 (文春文庫)

水声 (文春文庫)

登場人物はすべて、不安定で何かしら心が揺れている。それが水声だ。

とてつもなく冷たい。死の淵に立っているかのように、氷を詰め込んだように、静謐を通り越して文体はきりりと冷たい。

都と陵は姉弟。しかし、ただの姉弟ではない。

ママとパパも同じく訳ありである。

奈穂子の、表情と感情が乖離しているような描写。

姉弟がぽうんと放り出されただだっ広い野。

それはママによって生み出された空白の時間であり、環境に振り回された彼らの唯一の居場所だったのか。

サリン事件も震災も、戦争も、喉に刺さった小骨のように静かに体に刺さっている。時空を超えて。

痛い。執着したくないのに、引き寄せられる。見たくないのに、こわいもの見たさで見てしまう。

ありふれたものの中に存在する「刺さるもの」。こわいもの。

陶酔、倒錯、生まれては還り、鳥となって巡ってゆくもの。時代背景。選ぶことのできない家庭環境。

それらが水の流れのように揺らぎながら迫ってくる。