思考は揺らめく道化師の羽

読んだ本と琴線に触れた音楽を綴る場所。かつて少年だった小鳥にサイネリアとネリネの花束を。

肉体の消滅を謳う。

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前回の記事の続きになる。

密やかな結晶 (講談社文庫)

密やかな結晶 (講談社文庫)

肉体の消滅、というと、何か堅苦しくなりそうなので、できるだけ柔らかく語ろう。

テナーと小川洋子には「体が消える」という特徴がある。

その感覚は「薬指の標本」にも言えることだったのだが、「密やかな結晶」ではさらにその意味が強い。

少しずつ、身体の一部が透明になって見えなくなってゆく。

名前もない場所で、というのは名前がなくなった場所でということなのか。

名前が失われた場所。色彩を失った場所。打ち捨てられたギター。

肉体(からだ)を失った男と少女。

体があるのに少しずつ欠けてゆくという感覚は、「欠損」と呼ぶにふさわしい。

視野が少しずつ狭まってゆくように、体が勝手に消えてゆく。

そして、ある時彼らは魂だけの存在になる。

それは人間の究極の姿であり、私たちが絶対に見ることができない場所なのだろうと思っている。

音楽と小説。ジャンルは全く違うはずなのに、似ているのが不思議だ。

彼らは同じことについて語っているんだろうか。

だとしたらなぜ、ここで言わなければならなかったのだろう。