思考は揺らめく道化師の羽

読んだ本と琴線に触れた音楽を綴る場所。かつて少年だった小鳥にサイネリアとネリネの花束を。

人生をライカと歩んだ男

LEICA,My Life (ライカ、マイライフ)

LEICA,My Life (ライカ、マイライフ)

人生をライカと共に歩んだその美学。そんな贅沢な話が「あたし」という一人称で軽快に語られる。
イカは掛け替えもない自分の目であり、自分の次に大事な身体の一部なのだ。彼はこう断言する。カルチャーは変遷してもカメラを持つ人の精神は変わらない。この本にはそういった普遍的な愛を感じる。もしこの世がデジタルだけのカメラ人生になったなら、それは砂を噛むような日々になるだろう。この一言で、なぜ今再びフィルムカメラが脚光を浴びているのかが判った気がした。

ちなみに私は未だにデジタルカメラの使い方を体得できていない。
手間は人を煩わせるものではなく、そこに秘められた、目に見えない大切な気持ちを汲み取るために必要なものではないのかと。それは映画の余白のように、必要不可欠なものではないかと思ったのだ。

今は亡き父の自動フィルム巻き上げカメラを触っていた、幼き日の自分を思い出す。それは子供の手にはあまりに大きく、黒くずしりとしていた。現像するまでどんなものが撮れるか分からない。あのときのカメラには、そういった食玩を開ける時のような、わくわくするような楽しみがあった。
今見えている世界を鮮やかに切り取る。私が写真を好きなのは、そういう可能性を秘めているからだ。