肉体の消滅を謳う。
前回の記事の続きになる。
- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/08/10
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肉体の消滅、というと、何か堅苦しくなりそうなので、できるだけ柔らかく語ろう。
テナーと小川洋子には「体が消える」という特徴がある。
その感覚は「薬指の標本」にも言えることだったのだが、「密やかな結晶」ではさらにその意味が強い。
少しずつ、身体の一部が透明になって見えなくなってゆく。
名前もない場所で、というのは名前がなくなった場所でということなのか。
名前が失われた場所。色彩を失った場所。打ち捨てられたギター。
肉体(からだ)を失った男と少女。
体があるのに少しずつ欠けてゆくという感覚は、「欠損」と呼ぶにふさわしい。
視野が少しずつ狭まってゆくように、体が勝手に消えてゆく。
そして、ある時彼らは魂だけの存在になる。
それは人間の究極の姿であり、私たちが絶対に見ることができない場所なのだろうと思っている。
音楽と小説。ジャンルは全く違うはずなのに、似ているのが不思議だ。
彼らは同じことについて語っているんだろうか。
だとしたらなぜ、ここで言わなければならなかったのだろう。