思考は揺らめく道化師の羽

読んだ本と琴線に触れた音楽を綴る場所。かつて少年だった小鳥にサイネリアとネリネの花束を。

1+1=1

きっと、1+1は2以上の何かを併せ持っているのだ。

たくさんの蝋燭の炎を見て、何を思い浮かべるだろう。

それは命の暗喩だろうか。

それとも、なにか呪術めいた黄泉がえりのことだろうか。

言語では理解できない事柄が、世界には存在する。

見たことも聞いたこともない、異国の地に体だけ放り込まれてしまったような疑似体験。

画面に映っていた男が、画面を見ている「こちら側」に気付いたかのように見つめる。

スクリーンの中でしか生きられない者たちがこちら側を見つめるという、観客と役者が反転したような感覚。

まるで村上春樹の小説に出てくる「顔のない男」のように。

白黒のスクリーンから映し出される風景は、カラーの風景よりも鮮明に焼きつく。

男の現実と、故郷の思い出が水で繋がる。

滴る水。溢れる水。体を横たえ、流れる滝や雨のイメージ。それらは不思議と嫌な気持ちがしてこない。

男の視線と私の視線がぶつかる。彼は確実に、画面の中で「生きている」。

チャップリンと映画の中で再会したらこのような気持ちになるのだろうか。

水は生者と死者を繋ぐ鍵のようなものだ。

革命を叫んだ男は火だるまになって転げまわる。

彼には水の守りを与えることができなかった。

ある種の宗教画のような、何かの新しい始まりの示唆を示すようで、哲学的な要素が満載だった。

一生に一回は見ておいて損はない映画だ。