統率された世界の片隅
- 作者:森泉岳土
- 発売日: 2019/12/21
- メディア: 単行本
登場人物たちは、強い主張をすることもない。
だが、沈黙の圧力が静かに横たわっている。
彼はその夜、自宅のガレージの中で死んだ。
N360の排気パイプにゴム・ホースをつないで、窓のすきまをガム・テープで目張りしてからエンジンをふかせたのだ。-ノルウェイの森(上)/p51
何の予兆もなしに、自ら命を絶ち切ったキズキ。
ここでは、名もなき一人の青年だ。
彼女は最初から、空白を胸に抱いていた。
「彼」の存在が消滅することによるトラウマによって。
蛍の光は、僕(ワタナベくん)には捕まえられない。
いつでも彼の行く一歩先にあったからだ。
私たちの生活は、インターネットという媒体によって変わった。
環境も思考活動も、「経済活動」のスタンスですら、大きく変化することになった。
「ビッグ・ブラザー」の無機質な顔に恐怖を覚えるのは、私だけではないはずだ。
独裁者は目に見えない。メディアを通してのみ、情報は伝えられる。
それが間違ったものであったとしても、騙される人間がいる限り続くのだ。
私は登場人物たちの目を、まっすぐ見ることが出来なかった。
ふたつの物語は、現代を生きる人々に警鐘を鳴らす。
「安易に同調してはならない。独裁的な権力を許す行為に他ならないからだ」と。