思考は揺らめく道化師の羽

読んだ本と琴線に触れた音楽を綴る場所。かつて少年だった小鳥にサイネリアとネリネの花束を。

「この世界にアイは、」

i(アイ)

i(アイ)


「この作品には悲しみも、
苦しみも、何もかもすべてひっくるめて愛せるだけの強靭さと優しさがある。」

今だからこそ書きたいと思ったのだ。

主人公はワイルド曽田アイ。

彼女はシリアと日本と、両方の国で育った。

ある教師の一言から、彼女の「迷う」人生が始まる。

自分のアイデンティティはどこにある?

それは、誰にでも存在する問いだと思う。

物珍しい場所で育ったのでなくても、誰だって自己の存在に悩むことはある。

そう、私だって、一番大切な時には守ってもらえなかった。

いつだって自分が歩き出すことでしか自分を知って貰う方法がなかったのだ。

その度に私は傷つき、少しずつ成長していったのだろう。

本人も分からないぐらい、小さなスピードで。

ただし、彼女の悩みは、普通の人が経験するよりもっと激しく、辛く、底が見えなかった。

「どうして私だけが幸せにならなければならないの?」

「もっと不幸な人はいるんじゃないの?」

彼女は深く深く落ち込み、読んでいるこちらが心配になるぐらい元気をなくす。

その、あまりにも極端すぎる描写のせいか、この作品には賛否両論がある。

そのためいつ、この記事を書こうか迷った。

でも、だからこそこの作品の「強さ」というものが現れているのではないかと。

直木賞を受賞した「サラバ!」に次ぐ、西加奈子の「本気」が垣間見える傑作。

混沌とした今だからこそ、出合いたい。

強くそう思わせる作品だ。